シャトルシェフ 開発秘話

「シャトルシェフの鍋」これはすごい発想の鍋と前から思っていた。
今回この鍋の開発に関する秘話が新聞に掲載されたのでご紹介したい。
1月18日 朝日新聞 夕刊 「泣き笑い」より  シャトルシェフ
サーモス専務取締役
樋田 章司さん(52) 
 寒い冬はシチューやおでんなど温かい料理がおいしい。煮炊き用の鍋と保温容器を合わせた、この真空保温調理器も活躍する季節だ。
 世界初のステンレス製魔法瓶を78年に商品化した日本酸素の技術を応用し、現在は子会社のサーモスが製造する。89年に発売し、販売総数は国内約250万個、海外約100万個にのぼるという。
 魔法瓶で培った技術を応用する道を探していたところ、仲間が聞いた「魔法瓶で豆が軟らかくなる」という話が開発の発端になった。
 はじめは一体型で、鍋の側面を真空断熱する仕組みを考えた。しかし、コンロの火は底だけでなく側面にも回る。「断熱してあると中へ熱が伝わらず、鍋が真っ赤に。これじやだめだとあきらめた」
 議論を繰り返すうち、思い至ったのは釜とおひつのような分離型だ。鍋を直火にかけ、それを保温容器に入れる。簡単に思えたが、細い魔法瓶に比べ、大きな容器の真空断熱構造は格段に難しかった。はじめは底がぼこぼこになって、改良には苦労した。
 試作の完成は87年。温めた食材を適切な温度に保てば、魔法瓶の豆が煮えたようにシチューや煮込みもできる。火にかける時間が短くて済み、省エネになるし、安全性も高い。
 だが、「そこまでは技術屋の頭で考えたこと」だった。果たして本当に使ってもらえるのか。商品化には手軽なレシピ作りが必要だった。
 試作品を調理学校へ持ち込んで助言を受けたが、だれもが上手にできる保証はない。新しい調理法だから味付けも水の量も変わる。「会社では、毎日調理して食べることの繰り返し。試作品を自宅にも持ち込んで、いろいろ作っては味を論評し合った」
 カレーや煮物、おかゆ、茶わん蒸し......。20品目ほどのレシピをまとめ、販売を始めるまで2年を費やした。
 製品には、さまざまな反響が寄せられた。煮くずれしない、味がよくしみ込む.....。開発者が深く考えなかった効果が消費者に受けていた。
 発売から10年後に実施した自慢料理のレシピキャンペーンには、約千点の応募があった。今では保温性能を利用し、納豆やパンの生地を発酵させるのに使う人もいる。
 「想像もしなかった使い方が広がった。私たちの手を離れて、今も進化し続けている商品です」
(米山正寛)
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