東京散歩 谷中 根津

 山手線の日暮里駅の南口を降りると、すぐに目にはいるのが天王寺だ。その寺を左手に見て、そのまま進むと、谷中霊園に入るが、その通りが、そのまま園内の中通りとなり、霊園をほぼ直線で横断、通り抜けができ、谷中の街へと向かうことができる。広めの通りは桜並木となっており、満開の季節にはさぞかしい美しく、華やかなことだろう。
 谷中霊園は1874年、公共墓地となり、1935年、名を谷中霊園とした。渋沢栄一、横山大観など著名人の墓が多くある。徳川慶喜の墓もあるので、探してみた。見つけることができたが、どうも非公開のようで、墓を取り囲んでいる柵の隙間から眺めた。ここにはかって五重塔があったが、焼失してしまい、現在では石の土台のようなものが残っているだけだ。この五重塔は幸田露伴の「五重塔」のモデルになったと聞く。
 谷中を今回の散策の目的地に選んだのは、東京の下町情緒に触れたかったからだ。
谷中霊園の中央通り 徳川慶喜の墓 霊園内にある建物の
何気ない風景

 1657年 江戸を明暦の大火が襲った。この谷中の目と鼻の先に将軍家の菩提寺・寛永寺があって、大火後、この地にお寺が集められた。その為、大変多くのお寺がある。谷中は紛れもない「寺町」だ。
 谷中霊園の中央の通りを日暮里駅から谷中の街に向かっていくと突き当たりとなる。そこを左に折れ言問通りに向かっていくと、右手に昭和の面影を色濃く残し、趣のある菓子屋がある。谷中岡埜栄泉という大福を販売している和菓子屋だ。明治から続く有名なお店で、お店の前そして店内には何人かのお客が並んでいた。中を眺めていると、店主らしき人が、売り切れをお客に告げていた。手に入らないとよけいに食べたくなるのが人情だ。並んでいた方にはお気の毒だ。
下町風俗資料館 付設展示場

谷中で江戸時代から続いていた酒屋、
吉田屋の建物(移築)
寺町 谷中

 谷中を歩いていると、古く懐かしいお店に出会う。そして、そのお店の中で、商品が、びっくりするぐらい無造作に、あか抜けない様子で陳列されているのを何度か見た。購買意欲を高めるための心理的アプローチなど無縁なのだ。そうした店を何かほほえましく思った。昔はみなそうだったのだ。 
 懐かしい作りの住宅や店舗は、ほとんどが散在していて、テーマーパークがみせるような、懐かしさを凝縮したような風景には出会わない。しかし内包された歴史が、そこはかとない下町の空気を発散させ、ふと子供の頃見た情景を蘇らせてくれる。
 昔の建物で、その風情を活かし、今に活躍している店を多々見る。しかしその一方、古く朽ち果ててしまい、たぶん解体され、間口の狭い現在の合理的3階建住宅などに替わるだろう運命の住宅も多く見た。
土蔵を活かしたギャラリー・雑貨店。
谷中にはコンセプトショップが多い。

朝倉彫塑館(右・下画像)
 日本の近代彫塑を確立した彫塑家、朝倉文夫の作品、コレクションなどを展示している美術館。たくさんの作品を残しているが、私たちが一番知っているのは、大隈重信像だろう。この美術館は朝倉文夫のアトリエ件住居で、それを見学できることが、なにより嬉しい。この美術館は、コンクリートのアトリエと数寄屋造りの木造住宅、二つの様式で構成されている。その様式の棟の中央に自然の湧水を利用した美しい庭園を配している。その構成が素晴らしい。建物、庭は朝倉文夫の設計で、これら自体がもう展示物だ。
 彫塑は分からなくても、ともかく建物を見ていれば楽しい。アトリエは3階建てで、3階部は大きな気品漂う和室になっていて、真ん中に大きなちゃぶ台のようなお膳が置かれている。そしてその階から急な階段を上ると、屋上で、そこが庭園になっている。今でこそ屋上緑化は珍しくないが、当時としてはすごいことなのだろう。下は普通の土を敷いているので、建物への加重・防水を考えると、その苦労が慮られる。 アトリエの棟に密着して、木造の住居があるが、残念ながらそこへは今回入れない。耐震構造への工事があるためだ。しかし、1回アトリエを通して、各部屋、渡り廊下を見ることができる。ここで酒が飲めたらどんなにいいかという風情をしている。そこに入ったら確実にタイムスリップできるそんな空間だ。

 左画像は日暮里駅からほど近い距離にある「谷中銀座」のとば口。ここは観光地ぽいお店があるわけでなく、生活に根ざした小さなお店が軒を並べていて、商店街としてもさほど大きくない。途中にコロッケをあげている店があって、お客が並んでいた。特別なうたい文句があるわけでなく、ごく普通のお肉屋さんが揚げているコロッケのようだ。それを紙にくるんで、商店街を歩きながら、ほおばっている人を多く見かけた。下町を感じさせてくれる商店街だ。

後で聞いた話なのだが、コロッケを販売しているお店は、メンチが有名で、芸能人にも多くのファンがいて、有名なお店とのこと。その先に行くと生ビールが軒先で飲める場所がある。メンチとビール。良い組み合わせだ。

 谷中に隣接、門前町として発展した根津にも赴いた。訪れた所は、根津神社。1900年の歴史を有し、五代将軍徳川綱吉が現在の社殿を奉建した。現在、国の重要文化財になっている。今回はちょうど文京つつじまつりの真っ最中で、多くの人で境内はにぎわっていた。境内の起伏に富んだ高低差のある場所につつじ苑があり、そのため遠目にも50種類、3000株のツツジが立体的に鮮やかに眺められる。 残念ながら時間の都合で、今回は本殿への参拝はやめて、名物の酒蒸しまんじゅうを買って根津神社を後にした。
根津神社 楼門  根津神社 唐門
奥が社殿になる。



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