お客様へのおたより

「フライパン表面の塗装がはがれてきました。」のお客様のお便りのご返事。

フライパンの表面の漆黒の色合いは見事です。南部鉄器独特の風合いです。ただこの黒の皮膜は時間と共に薄くなってきます。これが完全にコーティングされたホーローやテフロンのようなものでしたら、大事な栄養素である「鉄分」は流失しません。鉄分の補給ができなくなってしまいます。またテフロンのように強火に向かないフライパンの構造となってしまう可能性があります。(鉄器そのものは熱に大変強いのです)また金属のヘラで表面をこすりキズをつけてしまったり、空焼きしてしまい白っぽく変色してしまうこともあります。もちろんこれらキズや変色はそうならない方がいいのですが、調理に対する性能に対して、実際塗膜の変化は無関係です。塗膜はテフロンのようにこびりつきを防ぐものではありません。鉄器は蓄熱性が高く素材を入れたときの温度の下がりを最小限に抑えられること、蓄熱性の良さが鉄板に均一に熱を行き渡らせ表面の熱ムラが少ないこと、これらがこびりつきにくい表面を形成します。また表面が小さい穴で覆われ、その成分に通常の鉄より多くの炭素を含んでいることが油との相性を大変よくしております。もちろんその油がこびりつきを防いでくれるのです。お客様から「比較的少量の油でも上手に調理できた」と言われますのは、この特性です。そして鉄と油と熱が風味豊かな香りを生み出してくれます。
 最初に申し上げましたが、使用頻度、扱い方にもよりますが、塗膜が部分的に薄くなりネズミ色の地肌が出てくることがあります。これはある意味で自然なことです。ぶちの状態は使っていくうちに、油膜と合間見れ自然と融合し老練な味わいへ変化して参ります。岩鋳佐藤氏は(ご自分でももちろん使っております)、漆黒の表面より、この状態の方が好きと言っております。鉄器のフライパンは人と共に年をとり、時と共に変化し成長するまれにみる本物の生きた道具であると思っております。